女性の作曲家や指揮者が少ないのは、なぜ?
先日、オペラ講座に参加された50代の女性から「女性の作曲家や指揮者が少ないのはなぜですか?」という質問を受けた。たしかに現在に至るまで、作曲家と指揮者は圧倒的に男性が多かった。少なくとも20世紀までは当然のことであった。その理由に思いを巡らし、21世紀以降はどうなるのかを考えてみた。
演奏の分野で女性が100パーセント男性と互角に勝負できる分野は声楽である。(ただしカトリックの教会においては、イヴの原罪によりミサは全て男性により執り行われる。このことが教会の少年合唱隊、ひいてはカストラートにも繋がった。)
楽器の分野では、小型の楽器に関しては女性にとってハンディがあるとは思わないが、コントラバスなどの場合手が小さい人は不利であるし、低音の金管楽器なども肺活量の点で不利である。現在、弦のセクションなどは女性の方が多いオーケストラもある。だがコンサートマスターとティンパニー奏者は圧倒的に男性が多い。
数十年前、女性チューバ奏者がいるオーケストラの演奏がTVで放映された。シンシナティ交響楽団であったと記憶しているが、その当時ヨーロッパでは考えられないことであった。ごく最近女性ティンパニー奏者がいる管弦楽団の演奏をほんの一瞬見たのだがどこの管弦楽団か確認できなかった。時代は少しずつ変わってきているのは確かである。
欧米の女性作曲家の活躍について、日本ではあまり知ることができないのが現状ではあるが、少なくとも日本では女性の作曲家の活躍は顕著である。
19世紀後半、ロマン派の時代でさえ、女性が音楽家として活躍するには多くの困難があった。その中で、まず作曲家として名の知られている女性は?というと、ファニー・メンデルスゾーン(メンデルスゾーンの姉)やクララ・シューマンはピアニストとしても作曲家としても才能ある女性として知られている。だが「乙女の祈り」のテクラ・バダジェフスカは数十曲のピアノ曲を残しているものの、評価としては素人の域を出ていないと言われている。19世紀まで女性が高い教育を受け、専門的な職業に就くということはまずなかった。音楽の世界でも同様である。
作曲家として男性と互角の評価を受けた最初の人物は、おそらくナディア・ブーランジェと妹のリリ・ブーランジェではないだろうか。姉ナディアは1887年に生まれたフランスの作曲家・指揮者・ピアニストであり、教育者としても1948年にはフォンテーヌブロー・アメリカ音楽院の院長に就任している。妹のリリ(1893年)は、才能は姉以上といわれ1913年には女性として最初のローマ大賞第1等を受賞している。しかし病弱であったためわずか24歳で他界した。二人とも管弦楽を伴う曲を書いているし、ナディアはオペラも書いている。
もう一人現代の女性作曲家として紹介しておきたい人がいる。カイヤ・サーリアホ(1952年、フィンランド)である。昨年彼女のオペラ《遥かなる愛》が東京オペラシティで上演されたので記憶に新しい。
日本人の女性作曲家で、オペラを18作も残した原嘉壽子(1935-2014)という名も挙げておきたい。この数はとび抜けた音楽的体力の持主であることを証明している。40代から60代までの間に18ものオペラを書き上げている。1999年には新国立劇場の委嘱作品として《罪と罰》を作曲している彼女に対し、2017年3月には追悼公演として《よさこい節》が企画されている。

女性の作品は概して言葉と結びついたものが多く、大規模な絶対音楽はあまりないように思う。また室内楽的な小品に傑作を多く残している。このことは大変私的な観点ではあるが、一般的に、女性は感性の面では非常に豊かであるが、物理的な構築力、重厚な存在感という面で男性とは異なるのではないだろうか。このことは建築家に女性が少ないということとも関係しているように思う。
次に指揮者に目を移してみよう。
この分野でも長い間男性が世の中を支配していたという歴史と無関係ではない。ベルリン・フィルに女性の奏者が入ることでさえ大問題になったのが、1981年―82年にかけてのザビーネ・マイヤーの事件である。彼女の実力をカラヤンが認めたにもかかわらず、ベルリン・フィルの団員は認めなかったのである。ウィーン・フィルの最初の女性奏者は1997年に採用されたたハープ奏者であった。これらの事実は何を意味しているのか…。言うまでもなく多くの男性は自分たちのトップに女性が立つことを望まないのだ。国家のトップであれ、会社のトップであれ、基本的には同様である。だが近年コンクールなど客観的な評価により、女性の指揮者としての実力を無視できない状況になっている。
現在トップに挙げるべきはシモーネ・ヤングであろう。2005年ウィーン・フィルに初の女性指揮者として登場し、同年以降ハンブルク国立歌劇場総支配人及び同フィルの首席指揮者を務める。
日本人の指揮者としても松尾葉子が1982年ブザンソン国際指揮者コンクールで女性初の優勝を飾っている。また西本智実はオペラにも関心が深い指揮者として今後の活躍を期待したい。
21世紀には、女性の作曲家、指揮者が飛躍的な活躍を遂げるに違いない。また、それを大いに期待したい。

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category - クラシック