オペラと毒薬
多くのオペラ・セリアは主だった登場人物の何人かが死ぬか殺されるかします。多分刃物によるものが自殺、他殺を合わせて一番多いだろうと思います。例えば、蝶々夫人は短剣で自害し、マリア・スチュアルダは処刑され(断頭台)、カルメンは刺殺されます。ヴィオレッタやミミは病死(結核)、アイーダとラダメスは石牢の中で、マノンは荒野で衰弱死します。ちよっと変わったところでは、『スペードの女王』伯爵夫人のショック死、『若い恋人たちへのエレジー』トニーとエリーザベトの遭難死等などもあります。これから述べようと思っているのは毒薬による死です。調べてみたら思いのほかにたくさんあるのです。まず自ら毒を煽って死ぬのは、
◆ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』
レオノーラはルーナ伯爵のものになるより死を選ぶ。
◆ジョルダーノ『フェドーラ』
フェドーラは自分の密告がバレたことを知り、毒薬を仰ぐ。
◆ベルリーニ『カプレーティとモンテッキ』・グノー『ロメオとジュリエット』
ロメオは仮死状態のジュリエットを見て死んでしまったものと勘違いして毒を仰ぐ(その後、ジュリエットはロメオの死を知り、ロメオの短剣で胸を突く)。
◆プッチーニ『修道女アンジェリカ』
我が子の死を知ったアンジェリカは、自ら薬草を煎じて毒薬を作り飲み干す。
◆ヴェルディ『ルイザ・ミラー』
真実を口にしない恋人ルイザに絶望したロドルフォは毒薬を飲む(ルイザにも飲ませる)。
毒殺されるのは、
◆ヴェルディ『 シモン・ボッカネグラ』
シモンは水差しから水を飲むが、その中にはパオロが遅行性の毒を注いでいた。
◆ケルビーニ『メデア』
グラウチェはメデアから内側に毒を塗った花嫁衣装を贈られ、着た途端、全身焼け爛れて死ぬ。
◆ショスタコーヴィッチ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』
ジノーヴィー夫人のエカテリーナに言い寄った舅のボリスは、中毒死に見せかけてエカテリーナに毒殺される。
◆ヴェルディ『ルイザ・ミラー』
ルイザはロドルフォに毒を飲まされる。(前述)
◆ドニゼッティ『ルクレツィア・ボルジア』
傭兵隊長ジェンナーロはルクレツィアの不義の子。自分の出生を知らないジェンナーロは、フェラーラ大公に毒を盛られるがルクレツィアに解毒剤で助けられる。しかし再び、ルクレツィアが毒を入れた酒を友人とともに飲んでしまったジェンナーロは、友人を助けるだけの量の解毒剤がないことを知り、友人オルシーニとともに死ぬことを選ぶ。
◆チレア『アドリア-ナ・ルクヴルール』
ルクヴルールは、恋仇である公爵夫人が送った毒を仕込んだ花によって殺される。
◆トマ『アムレット(仏語)』
アムレットの父デンマーク王は、午睡中弟の手により毒殺される。その状況は亡霊として登場する王によって語られる(シェークスピアの原作では耳に毒薬を流し込まれるのですが、オペラでは口にとなっています。口を開けて寝ていたのですかね?)。
その他、例外として、
◆グルック『オルフェオとエウリディーチェ』
毒蛇に噛まれてエウリディーチェが死んだところからこのオペラは始まる。
◆ポンキエルリ『ジョコンダ』
ラウラはジョコンダから昏睡状態になる薬を飲まされるがやがて目覚める。
◆プーランク『人間の声』
女は電話をする前に大量の睡眠薬を飲んでいたのでは?(私の解釈です。どうみても女の行動は死を意識したものに思えるので)。
◆オッフェンバック『青ひげ』
妻たちは毒薬を飲まされて死にかけたが、ポポラーニに助けられる。
媚薬についても記しておきます。
●ドニゼッティ『愛の妙薬』(薬ではなくワイン)
●ブリテン『真夏の夜の夢』
●ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』(これは媚薬が悲劇をもたらします)
ここに挙げたのは私が知っているものだけなので、毒薬に関する死はこのほかにもあると思います。
自ら毒を煽るというのはともかくとして、毒薬を使って殺害するのは、剣によって刺すという行為に比べ何か卑怯な気がします。殺された方は、誰の仕業かも、なぜ殺されるのかもわからないまま死んでいくのです。無念だろうと思いませんか。刺し殺すという場合はほとんど加害者が男性ですが、毒殺となると女性が加害者である比率が高くなりますね。これは女性が非力であるがゆえに、男性に抗うにはほかに方法がない、つまりやむを得ないことなのかもしれません。毒薬による自殺も女性の方が多いようです。でも蝶々さんやジュリエットは短剣で自害します。共に十代の女性です。短絡的と言ってしまえばそれまでですが、若さゆえの行動力とか思いつめたものを感じます。女性は年をとり知恵がつくと毒薬を利用するようになるのでしょうか。

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category - オペラ