《ノルマ》を歌うということ
オテロがテノールとして究極のロールであると同様、ノルマはある意味でソプラノにとって究極のロールなのではないか。METライブビューイング、2017-18年シーズンのオープニングはソンドラ・ラドヴァノフスキーの《ノルマ》である。ラドヴァノフスキーは15-16年のシーズンにドニゼッティの女王三部作の主役を一人で歌い切った。トスカ、レオノーレ《ラ・トロヴァトーレ》などを歌っているリリコ・スピントのラドヴァノフスキーは、アジリタのテクニックも持ち合わせており、まさにノルマを歌うのに申し分ない声と言ってよいだろう。
しかし、ベルカント・オペラを長年歌ってきた軽い声のソプラノ歌手にとって、《ノルマ》を歌うことは一大決心を要することなのだ。現在コロラトゥーラ・ソプラノとして世界の最高峰に位置するエディタ・グルベローヴァは50代後半の2003年、マリエラ・デヴィーアは 2013年60代半ばにして初めて《ノルマ》を歌った。満を持してという言葉通りである。彼女たちがこの年齢になるまでノルマを歌わなかったのはなぜだろう。そして、リリコ・レッジェーロにとって《ノルマ》が超難役になったのはなぜだろう。
思うにそれはマリア・カラスが原因ではなかったか。カラスはそれまであまり歌われることのなかった《ノルマ》をメジャーな演目に押し上げた。カラスは《ノルマ》を、声の技巧を聴かせるベルカントの難曲というだけでなく、女としての情感・苦悩・嫉妬などすべてを表現した、非常にドラマティックなロールに作り上げた。そしてそのような表現のために、声に過重な負担をかけることになった。カラスの歌い方に影響されたテバルディは声帯を壊し、長い休養を余儀なくされた。また、カラスの再来といわれたスリオティスは、わずか10年で消えてしまった。
カラスと同世代のサザーランドは37歳で《ノルマ》を歌っている。カラスとは違ったアプローチの仕方、つまりあくまでもリリコの声で歌っているのだ。クンデやアラーニャがオテロを歌うように、自分の声を尊重した上での取り組みである。
グルベローヴァ、デヴィーアは、ドニゼッティの女王三部作を歌い、声が熟するのを待って《ノルマ》を歌った。これはあくまでも私の想像だが、声に負担をかけることで歌手としての寿命が多少短くなるかもしれないという覚悟? の上ではなかっただろうか。幸い二人とも現在でも歌い続けている。非常に賢いレパートリーの選択のたまものだろう。
昨年グルベローヴァとディミトラ・テオドッシュウが日本で《ノルマ》を歌った。この夏にはデヴィーアが日本で初めて《ノルマ》を歌う。秋にも公演があるが、これが彼女の日本での最後のオペラになるとのことである。
Please click !
↓

にほんブログ村

スポンサーサイト
category - オペラ